「ね、あなた、高砂台はあのあたりかしら」

「ね、あなた、高砂台はあのあたりかしら」
扶代の指さす彼方に、旭川の街と田園をぐるりと囲むなだらかな丘が、やわらかくかすんでいる。
「いや、もっと右手だろう」
容一は腕を組んで目を細めた。小児科医と見られるやさしい表情である。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 金井が、香也子の両頬を手で挟んだ。そしてそっと唇を近づけようとした時だった。うしろで、けたたましくクラクションが鳴った。

  2. 「…………」  香也子は向かいの山を眺めながら何か考えているふうだった。

  3. 香也子は父の手をふり払って、ふくさをつけている和服姿の中年の女にいった。

  4. 青地に白の、水玉模様のこうもり傘をさして、香也子は小雨の外に出た。庭の牡丹がアララギの陰に華やかに咲いている。

  5. 「そうか、ぼくは、あの人は何不自由なく育った幸せな人かと思った。そうか、お父さんがおられなかったのか」

  6. 人々の視線は、再び茶席に戻っている。