「大変な人ねえ」 扶代が楽しげにいった。

「大変な人ねえ」
扶代が楽しげにいった。
「これでもだいぶ帰ったんだろう。もう四時過ぎだからねえ」
容一が章子をふり返る。青いスーツを着た章子は、屈んで草原に群れ咲く白い小さなふくべらの花を摘んでいる。容一は、めだたぬ可憐なふくべらが章子のようだと思った。紫のすみれも、ふくべらにまじって咲いていた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 章子は立ちあがって、 「あ、香也ちゃん、すみません」 と、盆を受けとろうとした。

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  3. ひとしきり雑談のつづいたあと、言葉が途絶えた。

  4. 「やっぱり、馬子にも衣装よ」

  5. 「香也子、お前、お姉さんに久しぶりで会ったんだろう。まず挨拶をしたらどうだ。怒るのはそのあとでもいい。なあ、恵理子」 「香也ちゃん、しばらくね」

  6. 恵理子は焼却炉のそばを離れたかったが、燃えつきるまでそばについているように、常々保子からいわれている。