「大変な人ねえ」 扶代が楽しげにいった。

「大変な人ねえ」
扶代が楽しげにいった。
「これでもだいぶ帰ったんだろう。もう四時過ぎだからねえ」
容一が章子をふり返る。青いスーツを着た章子は、屈んで草原に群れ咲く白い小さなふくべらの花を摘んでいる。容一は、めだたぬ可憐なふくべらが章子のようだと思った。紫のすみれも、ふくべらにまじって咲いていた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 「ねえ、今日はそんなのんきな話じゃないのよ」

  2. 「おいしいわ。とってもおいしいわ」 香也子がいった。テーブルの上には、牛肉とピーマンと地物の筍のいため煮、毛蟹を使ったフーヨーハイ、それに容一の好きな八宝菜、酢ブタなどがいっぱいに並べられている。

  3. 章子は立ちあがって、 「あ、香也ちゃん、すみません」 と、盆を受けとろうとした。

  4. 「手があがったかね」コップにビールを注いでやりながら、容一がいう。

  5. 「少し白髪が……」と、保子はやさしく容一を眺めた。

  6. 「どうも、突拍子もない子でねえ。驚いたでしょう、金井君」