「まあ、きれい!」 思わず恵理子は声をあげた。

「まあ、きれい!」
思わず恵理子は声をあげた。
「毎年見ていても、この山の桜はきれいだねえ」
上機嫌にツネはいう。ござをかついだり、重箱をぶらさげたりした人々が山をぞろぞろ登り降りしている。車はようやく駐車場に着いた。露店がずらりとあたりに並び、錦飴や、お面、いか焼き、バナナなどを売っている。三人は、ひときわ濃い桜の大樹の下に降り立った。迎えに出ていたツネの弟子たちが、二、三人、すぐに寄ってきた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 五」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 神社の下の大きな桜の木の下に、赤い毛氈が敷かれ、野点が催されていた。

  2. 店内はひっそりとして客が二組ほどしかなかった。ま昼のせいだろう。容一、保子、恵理子の三人が、いちばん隅の席に向かい合っていた。 「いい娘になったねえ。まったくいい娘になった」

  3. いつも家の中で洋裁をするか、祖母のお茶の稽古の手伝いをするだけの恵理子の生活は、ほとんど異性に接する機会のない生活だった。

  4. 凞子はおそるおそる再び頬に手をやった。絹じゅすのような、曾ての肌理細かな頬とは、似ても似つかぬ手ざわりに、凞子は唇をきっとかんだ。

  5. むろん、いまの妻扶代の、善意でのびやかな性格もいい。

  6. 五月も十日に近い日曜の午後。