「見事だねえ。恵理子」

「見事だねえ。恵理子」
ツネがいった。その声にハッとわれに返って、恵理子は車の外を見た。旭山から帰る車が数珠つなぎになっていた。車はもう、旭山の麓にきていた。警官が鋭く笛を鳴らしながら、人と車をさばいていた。恵理子たちの車は、麓の橋の上でしばらく待たされ、やがてのろのろと山に登って行った。あでやかな濃い桜が、山の斜面にいっぱいに咲き匂っている。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 五」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. と、丘の上に車が現れた。車は真っすぐに香也子のほうに下ってくる。見覚えのある金井政夫の車だ。

  2. 同じ日。橋宮容一は、庭のテーブルでコーヒーを飲みながら、

  3. 「おばあちゃんは、お茶の先生でしょ」

  4. 思わず立ちあがった橋宮容一は、こちらに向かってまっすぐ歩いてくる香也子に、一瞬弱々しい微笑を向けた。が、香也子は、唇をキュッと閉じ、容一と恵理子を無視して、テーブルに近づいてきた。

  5. 「わたし、香也子です。よろしく」

  6. 「おいしいわ。とってもおいしいわ」 香也子がいった。テーブルの上には、牛肉とピーマンと地物の筍のいため煮、毛蟹を使ったフーヨーハイ、それに容一の好きな八宝菜、酢ブタなどがいっぱいに並べられている。