「見事だねえ。恵理子」

「見事だねえ。恵理子」
ツネがいった。その声にハッとわれに返って、恵理子は車の外を見た。旭山から帰る車が数珠つなぎになっていた。車はもう、旭山の麓にきていた。警官が鋭く笛を鳴らしながら、人と車をさばいていた。恵理子たちの車は、麓の橋の上でしばらく待たされ、やがてのろのろと山に登って行った。あでやかな濃い桜が、山の斜面にいっぱいに咲き匂っている。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 五」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 「…………」  香也子は向かいの山を眺めながら何か考えているふうだった。

  2. 沢を隔てた向かいの山が、日一日と鮮やかな芽吹きを見せてきている。

  3. 静かに戸をあける。鈴がリンリンと澄んだ音を立てた。

  4. 「ハ、ぼくは章子さんのいいように」 と、金井は容一のほうに頭をさげた。その金井に香也子が何かいおうとした時、整がいった。

  5. 「ねえ、お姉さん」 残ったコップの水を一息に飲んで、香也子はテーブルに片ひじをおき、身を乗り出すようにしていった。

  6. 「まあ? 恵理子姉さんって、そんなに魅力的?」