その次の日も、同じ時刻、向こう岸に青年を見た。が、それは二階の恵理子の部屋からだった。そして昨日の水曜日にまた恵理子は、青年を見かけたのだった。青年は、昼休みに、あの川岸でギターを楽しんでいるようだった。
(どうして同じところに……)
恵理子は、青年が自分に会うのを期待して、恵理子の家のすぐ向こうに現れるような気がした。そう考えることはうぬぼれのような気もした。会うのを期待しているのは、自分のほうかもしれないと、すぐに恵理子は思い返してみた。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 五」
『果て遠き丘』小学館電子全集