駆けこむように家にはいってから、恵理子は自分の感情の動きにふっと笑い出したくなった。

駆けこむように家にはいってから、恵理子は自分の感情の動きにふっと笑い出したくなった。昨日までは見も知らなかった青年に、ガールフレンドがいようがいまいが、自分には関わりのないことではないか。すねたように青年に背を向けていた自分が、ひどくこっけいに思われた。
(言葉をかわしたこともないのに)

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 五」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 青地に白の、水玉模様のこうもり傘をさして、香也子は小雨の外に出た。庭の牡丹がアララギの陰に華やかに咲いている。

  2. イタリヤポプラの下までくると、恵理子はポプラの幹によりかかって、まだ真っ白い大雪山を眺めた。

  3. そうかしら。女はただの顔見知りの人に、あんなに顔を赤くはしないわ。

  4. 思わず立ちあがった橋宮容一は、こちらに向かってまっすぐ歩いてくる香也子に、一瞬弱々しい微笑を向けた。が、香也子は、唇をキュッと閉じ、容一と恵理子を無視して、テーブルに近づいてきた。

  5. 「ハ、ぼくは章子さんのいいように」 と、金井は容一のほうに頭をさげた。その金井に香也子が何かいおうとした時、整がいった。

  6. 金井が、香也子の両頬を手で挟んだ。そしてそっと唇を近づけようとした時だった。うしろで、けたたましくクラクションが鳴った。