車は次第に旭山に近づく。

車は次第に旭山に近づく。恵理子は思うともなく、またあの青年を思っていた。名前は知らない。青年は突如として恵理子の前に現れたのだ。最初は日曜日だった。恵理子がイタリヤポプラの幹によりかかって、大雪山を見つめていたとき、誰かの視線を強く感じてふり返った。そのとき青年は、川向こうのタンポポの中に、ギターを抱いてすわっていた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 五」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  3. 「あの……わたし、いまお茶を点てていた恵理子の妹なんです」

  4. それにしても、女の命は見目形であろうか

  5. 「式のことだがねえ、金井君」 そんないきさつを知る筈もなく、容一がいった。

  6. そうかしら。女はただの顔見知りの人に、あんなに顔を赤くはしないわ。