「混むかねえ、この天気だと」

「混むかねえ、この天気だと」
ツネの言葉に、いままで気の進まぬ表情でシートに身を埋めていた保子が、
「いやだわ、混んでいたら。埃っぽくて」
と、眉をひそめた。恵理子が、
「大丈夫よ、お母さん。今日は木曜日ですもの。それに、もう三時になるでしょう」
と保子を見た。二人ともつけさげを着て、車の中が華やいでいる。
「また保子の病気がはじまった」
ツネは気にもとめず、さばさばといった。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 五」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 同じ日。橋宮容一は、庭のテーブルでコーヒーを飲みながら、

  2. 物語を〈聴く〉という、発見  田中綾

  3. 恵理子の着ふるしを、香也子はよく着せられた。

  4. 店内はひっそりとして客が二組ほどしかなかった。ま昼のせいだろう。容一、保子、恵理子の三人が、いちばん隅の席に向かい合っていた。 「いい娘になったねえ。まったくいい娘になった」

  5. 「やっぱり、馬子にも衣装よ」

  6. 青年はギターを膝に抱え、