二人は顔を見合わせて、椅子に腰をおろした。 「これで第一関門はパスしたようだね」

二人は顔を見合わせて、椅子に腰をおろした。
「これで第一関門はパスしたようだね」
金井は少し股をひらいた。ほっとした表情と声音に、どこか微妙な変化があった。
「香也ちゃんなんか、飛びこんで……」
章子はすっきりしない気持ちだった。
「意外と、チャーミングな子じゃないの。それにあの子は、天性コケティッシュなところがあるよ」
「いやだわ」
「しかし、かわいいよ。君から聞いていた印象では、もっと意地悪なようだったけれど、すごく善意じゃないか」
金井は冷たくなったコーヒーに砂糖をいれてがぶがぶと飲んだ。
「善意かしら?」
章子の表情はかげっていた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 四」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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