容一は立ちあがり、 「ま、この後は君たち二人で……な、扶代」

容一は立ちあがり、
「ま、この後は君たち二人で……な、扶代」
「ほんとうに、ごゆっくりなさって、夕食でも食べていらしてね」
ドアに手をかけた容一がふり返って、
「ああ、近頃の若い人たちは、婚前交渉とか、同棲とか、いささかハッスルしすぎるようだがね。それだけは、式を挙げるまでお預けにしてほしいもんだね」
金井は立ちあがって不動の姿勢をした。
「は、あの……」
答えぬうちに、容一も扶代もドアの外に出ていた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 四」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 子供のように勢いよく走って行く香也子のうしろ姿を、西島広之は微笑して見送った。

  2. 店内はひっそりとして客が二組ほどしかなかった。ま昼のせいだろう。容一、保子、恵理子の三人が、いちばん隅の席に向かい合っていた。 「いい娘になったねえ。まったくいい娘になった」

  3. 静かに戸をあける。鈴がリンリンと澄んだ音を立てた。

  4. 香也子は今朝、新聞をひらき、そこに、五、六行の小さな記事を見て胸をとどろかせた。

  5. 「だからいったことじゃないか。第一だよ、わしに女ができたからって……そりゃ女をつくることは悪いよ。悪いがねえ、保子、俺だって男だからね。たまにはほかの女にも手を出すさ」

  6. 香也子は父の手をふり払って、ふくさをつけている和服姿の中年の女にいった。