金井はいま、思いきって橋宮容一に、章子との交際を求めたばかりなのだ。

金井はいま、思いきって橋宮容一に、章子との交際を求めたばかりなのだ。香也子がはいってきたため、容一の答えをまだ聞いていない。落ちつかぬ思いのまま、金井はこの愛らしい闖入者の相手をしなければならないのだ。金井はちょっと苦笑して、
「ぼくは、文学にはうといんです」
そう答えたほうが、香也子に対して無難なように思ったのだ。章子は帯締めに手をやりながら、香也子の横顔に、幾度も目をやった。香也子はその場に流れるちぐはぐな感じを最初から読みとっていた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 四」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 章子は立ちあがって、 「あ、香也ちゃん、すみません」 と、盆を受けとろうとした。

  2. 神社の下の大きな桜の木の下に、赤い毛氈が敷かれ、野点が催されていた。

  3. 茶席を出た香也子は、桜の木陰にいる祖母と、母の保子を見出した。

  4. 出稽古から帰ってきたツネのきものを、保子はたたみながら、 「ねえ、お母さん」 と、顔を向けずにいう。

  5. いま思うと、外から帰ってきた父が、洗面所で、

  6. 「ハ、ぼくは章子さんのいいように」 と、金井は容一のほうに頭をさげた。その金井に香也子が何かいおうとした時、整がいった。