章子は立ちあがって、 「あ、香也ちゃん、すみません」 と、盆を受けとろうとした。

章子は立ちあがって、
「あ、香也ちゃん、すみません」
と、盆を受けとろうとした。
「いいわよ。わたしがするわ」
香也子は、自分を見ようともしない金井を見ながら、少し切口上にいった。
その様子に容一はあわてて、
「ああ、金井君、これはわしの娘の香也子です。香也子、金井君だよ」
「は、金井です」
香也子と聞いて、金井はあわてて立ちあがった。香也子を見た金井の顔に微笑が浮かんだ。香也子の表情が、ひどく子供っぽく見えたのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 四」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 恵理子が柄杓を釜にいれた時、青年がいった。

  2. 店内はひっそりとして客が二組ほどしかなかった。ま昼のせいだろう。容一、保子、恵理子の三人が、いちばん隅の席に向かい合っていた。 「いい娘になったねえ。まったくいい娘になった」

  3. 「だからいったことじゃないか。第一だよ、わしに女ができたからって……そりゃ女をつくることは悪いよ。悪いがねえ、保子、俺だって男だからね。たまにはほかの女にも手を出すさ」

  4. 「見事だねえ。恵理子」

  5. 恵理子と別れたのは、香也子が十歳のときだった。

  6. と、ビールを飲みながら、ふっと笑って、 「いやですねえ。昔の話をむし返して。