章子は立ちあがって、
「あ、香也ちゃん、すみません」
と、盆を受けとろうとした。
「いいわよ。わたしがするわ」
香也子は、自分を見ようともしない金井を見ながら、少し切口上にいった。
その様子に容一はあわてて、
「ああ、金井君、これはわしの娘の香也子です。香也子、金井君だよ」
「は、金井です」
香也子と聞いて、金井はあわてて立ちあがった。香也子を見た金井の顔に微笑が浮かんだ。香也子の表情が、ひどく子供っぽく見えたのだ。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 四」
『果て遠き丘』小学館電子全集