いい終わらぬうちに、ドアをノックしてはいってきたのは、香也子だった。香也子は銀盆の上にフルーツポンチを運んできたのだ。
「いらっしゃいませ」
香也子の口もとにかわいい笑くぼができた。金井は黙って頭をさげた。はいってきたのはここの家の娘なのか、お手伝いなのか、確かめる心のゆとりもなかった。せっかくの話の腰を折られたのだ。金井はじっと自分の膝頭を見ている。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 四」
『果て遠き丘』小学館電子全集
いい終わらぬうちに、ドアをノックしてはいってきたのは、香也子だった。香也子は銀盆の上にフルーツポンチを運んできたのだ。
「いらっしゃいませ」
香也子の口もとにかわいい笑くぼができた。金井は黙って頭をさげた。はいってきたのはここの家の娘なのか、お手伝いなのか、確かめる心のゆとりもなかった。せっかくの話の腰を折られたのだ。金井はじっと自分の膝頭を見ている。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 四」
『果て遠き丘』小学館電子全集