二十畳の応接間に、いま、橋宮容一と、その妻扶代、そして娘の章子が、英語塾を経営する金井政夫と談笑している。窓から前庭の築山が見える。ひとかかえもある見事なアララギ、紫のエゾツツジ、真っ白な雪柳などが、きれいに磨かれた大きな一枚ガラスの窓のすぐ向こうに見えている。
右手の飾り棚には志野焼の壺、加藤顕清の女の胸像、イタリヤの大理石の花瓶などが、何の脈絡もなく、しかしひとつのまとまったふんいきの中に飾られている。
足もとには、ペルシャ製のバラ色の厚いジュータンが敷きつめられてあった。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 四」
『果て遠き丘』小学館電子全集