「…………」  香也子は向かいの山を眺めながら何か考えているふうだった。

「…………」
香也子は向かいの山を眺めながら何か考えているふうだった。
「今度、香也ちゃんをつれてってやろうか」
香也子は鋭く整を見、
「冗談じゃないわ。わたしを置きざりにして行ったお母さんなんか、まっぴらよ」
切りつけるような語調だった。
「なあるほど、そういうご心境ですか。ま、無理もないな」
何かいおうとしたが、整はそういった。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 三」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  2. 容一がそういったとき、幼い頃、散歩に手を引いてくれた父の手の感触が、ふっと思い出された。

  3. と、丘の上に車が現れた。車は真っすぐに香也子のほうに下ってくる。見覚えのある金井政夫の車だ。

  4. 恵理子と別れたのは、香也子が十歳のときだった。

  5. 「そうね、わたしも料理学校に行こうかな。ね、お父さん、わたし、章子さんより先にお嫁に行きたいわ」

  6. そうかしら。女はただの顔見知りの人に、あんなに顔を赤くはしないわ。