「おばあちゃんは、お茶の先生でしょ」

「おばあちゃんは、お茶の先生でしょ」
「旭川では、偉いお茶の先生だってね、あのおばあちゃん。しかし、気さくないいおばあちゃんだよ。自分の机の上に、長谷川一夫の覆面のブロマイドを飾ったりしてさ。死んだじいさんの仏壇になんか、ここ何年も手を合わせないって話だよ」
「あら、どうして?」
「じいさんの女遊びに、ひどい苦労をさせられたからだってさ。死んだって恨みは消えないんだそうだ。死んだじいさんのほうで、仏壇の中からあたしを拝めなんてさ、元気がいいよ、あのおばあちゃんは」

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 三」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  2. と、その時電話のベルが鳴った。ハッとしたように章子が受話器を取った。 「もしもし、橋宮でございます。あら、政夫さん?」

  3. 今夜も庭つづきの崖の下から蛙の声が賑やかに聞こえてくる。崖下の沢には田んぼがあるのだ。

  4. 香也子は、ひとくち汁をすすって、 「あ、そうそう。ね、お父さん。わたしね、あの時ボーイフレンドができたのよ。お茶席で、わたしの隣に正客になった人」

  5. 「見事だねえ。恵理子」

  6. 駆けこむように家にはいってから、恵理子は自分の感情の動きにふっと笑い出したくなった。