「おばあちゃんは、お茶の先生でしょ」

「おばあちゃんは、お茶の先生でしょ」
「旭川では、偉いお茶の先生だってね、あのおばあちゃん。しかし、気さくないいおばあちゃんだよ。自分の机の上に、長谷川一夫の覆面のブロマイドを飾ったりしてさ。死んだじいさんの仏壇になんか、ここ何年も手を合わせないって話だよ」
「あら、どうして?」
「じいさんの女遊びに、ひどい苦労をさせられたからだってさ。死んだって恨みは消えないんだそうだ。死んだじいさんのほうで、仏壇の中からあたしを拝めなんてさ、元気がいいよ、あのおばあちゃんは」

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 三」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. そうかしら。女はただの顔見知りの人に、あんなに顔を赤くはしないわ。

  2. 「だからいったことじゃないか。第一だよ、わしに女ができたからって……そりゃ女をつくることは悪いよ。悪いがねえ、保子、俺だって男だからね。たまにはほかの女にも手を出すさ」

  3. 「茶道教授 藤戸ツネ」と書いた看板

  4. お手伝いの絹子が、コーヒーを持ってテラスから芝生に降りてきた。

  5. 今夜も庭つづきの崖の下から蛙の声が賑やかに聞こえてくる。崖下の沢には田んぼがあるのだ。

  6. 「ご機嫌いかがですかな、香也子嬢」