「まあ? 恵理子姉さんって、そんなに魅力的?」

「まあ? 恵理子姉さんって、そんなに魅力的?」
「だろうな。理知的で、やさしくてきれいで……」
「もういいわ」
「怒ることはないだろう。君の姉さんのことをほめてるんだよ」
「整さん、すべての女性は、わたしのライバルに変わり得るのよ」
きっとして、香也子がいった。
「なあるほど。大変なファイトだ」
ニヤッと笑った整に、
「わたし、十ぐらいのときのお姉さんしか知らないのよ。本当に整さんのいうとおり、素敵な女性かしら」
「君って忙しい人だな。すべての男性は恋人に変わり得るし、すべての女性はライバルに変わり得る。それじゃ、心の休まるときがないだろう」
「いいえ、そう思うから、わたしには人生が楽しいの」
香也子は不意に子供っぽく笑って見せた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 三」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 整は今日、章子からの電話を受けて、金井の相伴にやってきたのだった。整の車がバス通りを下って行った時、香也子が金井の車に乗るのを見かけた。

  2. 子供のように勢いよく走って行く香也子のうしろ姿を、西島広之は微笑して見送った。

  3. と、丘の上に車が現れた。車は真っすぐに香也子のほうに下ってくる。見覚えのある金井政夫の車だ。

  4. ひとしきり雑談のつづいたあと、言葉が途絶えた。

  5. 車は次第に旭山に近づく。

  6. 「いつかねえ、旭山で恵理子のきもの姿を見たよ。いい娘になったね」 「…………」 「どうだね、一度お父さんと食事でもしないかね」 「……ハイ……でも」