「まあ? 恵理子姉さんって、そんなに魅力的?」
「だろうな。理知的で、やさしくてきれいで……」
「もういいわ」
「怒ることはないだろう。君の姉さんのことをほめてるんだよ」
「整さん、すべての女性は、わたしのライバルに変わり得るのよ」
きっとして、香也子がいった。
「なあるほど。大変なファイトだ」
ニヤッと笑った整に、
「わたし、十ぐらいのときのお姉さんしか知らないのよ。本当に整さんのいうとおり、素敵な女性かしら」
「君って忙しい人だな。すべての男性は恋人に変わり得るし、すべての女性はライバルに変わり得る。それじゃ、心の休まるときがないだろう」
「いいえ、そう思うから、わたしには人生が楽しいの」
香也子は不意に子供っぽく笑って見せた。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 三」
『果て遠き丘』小学館電子全集