絹子が去ってから、整がいった。 「章子ちゃんの恋人だろう、くるのは?

絹子が去ってから、整がいった。
「章子ちゃんの恋人だろう、くるのは? 遅れようと早くなろうと、香也ちゃんには関係ないだろう」
「整さんはのんき坊主ね。すべての男性は、わたしの恋人になり得る可能性があるのよ」
「まあ、そりゃそうだ。ただし、ぼくを除いてだろう」
「あら、わからないわ。わたしだって、整さんを好きになる可能性はあるし、整さんだって……」
「ぼくのほうは、香也ちゃんを恋人にする心配はないね」
「まあ、失礼。わたしってそんなに魅力がない?」
「大ありだよ。もっとも、君の姉さんの恵理ちゃんよりは落ちるがね」
整は健康な口にコーヒーカップを当てて、うまそうにコーヒーを飲んだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 三」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 「何を考えていたんだ」

  2. 茶席を出た香也子は、桜の木陰にいる祖母と、母の保子を見出した。

  3. 香也子は、ひとくち汁をすすって、 「あ、そうそう。ね、お父さん。わたしね、あの時ボーイフレンドができたのよ。お茶席で、わたしの隣に正客になった人」

  4. 二歳年下だが、八重は凞子と時折まちがわれるほどに、背丈も顔かたちもよく似ている。

  5. 章子は再び帯のあたりに手をやった。

  6. 香也子は父の手をふり払って、ふくさをつけている和服姿の中年の女にいった。