お手伝いの絹子が、コーヒーを持ってテラスから芝生に降りてきた。

お手伝いの絹子が、コーヒーを持ってテラスから芝生に降りてきた。
「やあ、ありがとう。いま、台所に飲みに行こうと思ったところだよ」
車のセールスマンである小山田整は如才がない。
「お客さまはまだ?」
香也子が尋ねる。
「あのう、二十分ほど遅れるって、電話がありました」
絹子は、さっき香也子の父が飲んだコーヒーカップを盆の上にのせながらいう。
「まあ、二十分も遅れるって?」
細い眉がきゅっとあがる。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 三」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 「あの、あと二十分ぐらいしたら、おみえになる筈ですけれど」

  2. 容一に手首をぐいぐい引っぱられて、何十メートルか、斜面を降りた扶代と章子は、あっけにとられていた。

  3. ひとしきり話が弾んだあと、保子は時計を見、 「あら、もう二時過ぎよ。急がなければ、おばあちゃんが帰ってくるわ」 「帰ってきたって、いいじゃないか」

  4. 恵理子の着ふるしを、香也子はよく着せられた。

  5. ガラシャ夫人の名を、はじめてわたしが聞いたのはいつの頃であったろうか。

  6. 容一は立ちあがり、 「ま、この後は君たち二人で……な、扶代」