鳶の啼く声に、小山田整が空を見あげていった。

鳶の啼く声に、小山田整が空を見あげていった。
「鳶の舞うときは、天気が変わるんだってさ」
五月の陽に、庭の芝生が輝いている。
「整さんは、物知りね。一分間に六千も流星が地上に降るとか、鳶が啼いたら何とやらとか」
香也子が整の目をのぞきこむように、いたずらっぽく笑う。
「それほどでもないけれどね」
「つまり、整さんは退屈してるってことね。恋人がないってことね」
「こいつ」
整が殴る真似をし、香也子が椅子を立って逃げる真似をした。芝生に香也子の影が動く。
「香也子にだって、恋人はいないじゃないか。章子ちゃんには、もうできたっていうのに……」
今度は香也子が殴る真似をし、整が逃げる真似をする。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 三」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 青地に白の、水玉模様のこうもり傘をさして、香也子は小雨の外に出た。庭の牡丹がアララギの陰に華やかに咲いている。

  2. 二歳年下だが、八重は凞子と時折まちがわれるほどに、背丈も顔かたちもよく似ている。

  3. 容一は立ちあがり、 「ま、この後は君たち二人で……な、扶代」

  4. 「香也子、お前、お姉さんに久しぶりで会ったんだろう。まず挨拶をしたらどうだ。怒るのはそのあとでもいい。なあ、恵理子」 「香也ちゃん、しばらくね」

  5. 出稽古から帰ってきたツネのきものを、保子はたたみながら、 「ねえ、お母さん」 と、顔を向けずにいう。

  6. 「ここにいることが、よくわかったねえ」 香也子は容一の顔も見ずに、天井から吊りさげられたランタンに目をやって、