企画展こぼれ話5 綾子の創作ノート

展示を企画する中で最初に読み、中身を組み立てていく過程で何度も開く資料が綾子の創作ノートです。2年前、初めて綾子の創作ノートを手にとった時は、一ファンとして読んでみたいものの、「第三者に見せるものとして書いていないのに、こうして私などが読んでよいのか」と葛藤がありましたが、「三浦文学を多くの人に伝えたい」という思いで、手がかりのノートを残してくれた綾子に深く感謝して読んでいます。

作家が小説を書くまではいろいろなスタイルがあると思いますが、綾子の場合は次のような流れで書くことが多いようです。
1. 雑誌や新聞の連載依頼
2. 題材を決める(あるいは『細川ガラシャ夫人』のように題材も依頼される)
3. 資料調べ・現地取材(創作ノート)
4. 3と平行しながら創作ノートに調べたこと、人物設定、書き出しの文章などを綴る
5. 4と平行しつつ下書き原稿を執筆
6. 三浦光世との口述筆記を行い、編集部へ提出する原稿を執筆、最終稿へ

つまり創作ノートは執筆の裏側がわかり、綾子の作品への思いがたくさん詰まっているのです。
ノートには、彼女の自由で大胆な性格がそのまま表れているように感じます。たとえば順番に綴られているかと思えば、後ろから書き始めていたり、表紙に「取材ノート」と書かれていても、取材以外のことも書いていたりとまさに「書き散らし」の状態。赤ペンや二重丸を多く用いているのも特徴で、おもしろく感じます。またほとんどのノートの表紙に「三浦綾子」と名前を書き、中には住所まで記してあるものもあるので綾子の性格が垣間見えます。
今回は初めての歴史小説ということもあり、歴史上の登場人物について調べたことを秘書の方に年表としてまとめてもらい、綾子が赤字で書き込みをしているものもありました。また、現地で取材したと思われる日付とその見た様子が絵として描かれていたり、ノートの表紙に「華麗豪しゃなる大阪の城」などその取材した時の印象が書かれていたり、取材中の日曜日に出席した教会でのメッセージを書き留めていたりと、創作ノートのページをめくると綾子の様子が浮かんできます。
残念ながら解読が難しい部分もあるのですが、「ここはお見せたい」というところはなるべく展示するようにしています。
作家の資料というのは当たり前ですが文字だらけ。研究の面から見るととてもおもしろいのですが、展示するとなるとバランスが悪く、ご覧になる方は疲れてしまいます。創作ノートのあれもこれも展示したいと、最初はたくさん拡大コピーをしてみるのですが、バランスを考えてやむなく数点を外すことに……。
パネルは展示の企画意図を盛り込みながら物語の内容を紹介し、写真を多く用いて構成しました。展示ケースは「物語はどのように生まれるか」「取材や執筆を支える編集部の存在」を中心に紹介しています。絵画や彫刻のようにビジュアルで「おっ」と驚くものではないかもしれませんが、綾子の言葉が生まれた背景に少しでも触れて頂けたらと思うのです。